実践・滞納処分の対処法「差押え」 読後感想

東京税財政研究センター編著、中村芳昭青山学院大学法学部教授監修の「差押え」(東銀座出版社)という本を読んだ。
これまでの滞納処分に関する書籍は、徴収行政側の立場で書かれたものだが、納税者の側に寄り添って書かれた滞納対策の手引書は本邦初というまえがきで始まるこの本は、
徴収法の解釈や滞納処分の対策というより、国家権力を背景とした執行に対する国民の権利を示している内容で、行政側・税理士だけでなく一般の納税者にも一読を勧める本である。

以下、要点を抜粋しながらコメントする。
「昨今、国、地方公共団体を問わず人権と生存権を軽視しているとさえ見える、滞納者の実情等をかえりみない強権的な滞納処分手法が横行しています。 (中略)
徴収法は結果として強制力の行使と幅広い裁量権を行政側に付与したけれども、強制力の行使はごく一握りの悪質な滞納者に向けられるべきであり、真に困っている大多数の納税者に向けてはならない。 そのことを諒解済みで徴収法は制定された」(p97)とある。
国会での財務大臣や国税局幹部の答弁も、個々の実情に即しながら、適切な処理を図っていく。 滞納者から分割のあった場合も十分相談し、実情に即した対応をとる。とは言うものの
実際の徴収現場では、事情を聞く前にいきなり「短期間の分納以外は認められない」といった事例があちこちで起き、反論すると「我々には裁量権が認められている」と開き直るといった、本来あるべき徴収行政が肝心の徴収現場で行われていない・・。(p123)
差押え等による強制徴収手段は、税務行政の最後の砦として徴収上の公平を担保し、一定の牽制効果をもたらす等の意味を持つが、悪質な滞納者なのか慎重の上にも慎重に対処すべき一般の滞納者なのかを判断するという、徴収行政側にとっても最も重要な仕事・・。(p121)

国税局徴収部作成のマニュアルで、悪質事案とは、
①全く納税に応じない
②継続的に見て納付資力がありながら、納税に消極的
③滞納発生から相当期間以上経過しているにも関わらず、過去に納付事績が一度もなく、長期にわたり累積している(後略、p174)

<事例1 いきなり売掛金の差押えを受け、会社解散を強要され自殺>
<事例2 たこ焼き専用車をタイヤロックされ、一家が飛び込み6人死亡>
<事例3 差押禁止財産(児童手当)を預金口座への入金直後に差押え、取り立てられた>
<事例4 年金(差押禁止財産)を差し押さえられ高齢者が餓死> (p178~p183)

いじめで自殺や女子柔道の体罰問題等、学校側や協会の対応の悪さが、最近マスコミを賑わしている。
上記の事例もそれに匹敵する程の問題だが、行政側や不服審判所も不当な処分かどうかよく吟味して対応しなければならない。

以前のブログ「元国税不服審判所の税理士」というタイトルで、
「不当処分判断という機能は以前から審判所にあっても狭く解釈していたのが、民間人の採用により偏らず常識的な裁決になっていくと予想される・・」と記載していたが、そのようになる事を祈願する。

さらに以前のブログ「国税不服審判所 審査請求」のような「実状無視、まず差押えありき」ではなく、今後は、滞納者の現況等を調査・聴取して、実情に即応した滞納整理を行うよう努めていくべきである。

 

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